インボイス制度でどう変わる?法人(発注側・受注側)が気をつけること
投稿日: 2025年11月28日 | カテゴリー: 建設業
インボイス制度で建設業の取引はどう変わる?
発注側・受注側の法人が押さえるべきリスクと実務対応を網羅的に解説します。
目次
インボイス制度の基本と法人建設会社への影響

インボイス制度の概要
インボイス制度とは、2023年10月から導入された適格請求書等保存方式を指します。従来の区分記載請求書に代わり、仕入税額控除を受けるためには「適格請求書(インボイス)」の保存が必須となりました。
適格請求書には、発行事業者の登録番号、取引ごとの税率区分、消費税額の明細などを記載する必要があります。これらが欠けている場合、発注側は仕入税額控除を認められず、余分な消費税負担を抱えるリスクが生じます。
特に法人取引においては、仕入税額控除が前提となるため、「適格請求書を発行できる事業者かどうか」が取引継続の重要な条件となっています。
法人建設会社に特有の留意点
法人規模で建設業を営む場合、インボイス制度への対応は一層複雑になります。
まず、下請・協力会社の管理の煩雑さです。中堅ゼネコンや工務店では数十社から数百社の協力会社と取引することが一般的であり、それぞれの登録状況を確認・管理する体制が不可欠となります。
また、建設工事は契約金額が大きいため、仕入税額控除が認められない場合の影響は数百万円規模の負担増につながる可能性があります。単なる事務的な確認不足が、会社の利益を大きく圧迫する要因となり得るのです。
さらに、制度導入にあたり国は経過措置(令和5年10月〜令和11年9月)を設けています。この期間は、免税事業者からの仕入れについても一定割合の仕入税額控除が認められますが、その割合は年々縮小していきます。
したがって、法人建設会社は早い段階で協力会社の登録状況を把握し、経過措置終了後を見据えた取引戦略を立てることが不可欠です。
発注側(元請・ゼネコン・中堅工務店)が気をつけること

取引先のインボイス登録状況の把握
発注側がまず行うべきは、協力会社や下請企業が適格請求書発行事業者として登録済みかどうかの確認です。国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」で検索すれば、取引先の登録番号や有効性を確認できます。さらに、契約締結の段階で「登録番号を契約書・注文書に明記する」フローを取り入れることで、後のトラブルを未然に防ぐことが可能です。
請求書の受領・確認プロセス
インボイス制度下では、受領した請求書が適格要件を満たしているかを経理部門が正確にチェックする仕組みが欠かせません。登録番号、税率区分、消費税額など必須項目の有無を確認するため、チェックリスト化や標準化が推奨されます。不備が見つかった場合には、迅速に差戻し・再発行を依頼できるよう、発注元と協力会社の間で明確なフローを構築しておく必要があります。
未登録協力会社との取引リスク管理
協力会社がインボイス未登録の場合、発注側は仕入税額控除を十分に受けられず、経過措置の段階的縮小に伴い税負担が増加します。
例えば令和5年から3年間は8割控除が可能ですが、以降は5割、2割へと縮小し、最終的にゼロになります。そのため、取引継続の可否や契約条件の見直しを行わざるを得ないケースも出てきます。
ただし、発注者が一方的に不利益な条件を押し付ければ、下請法や独占禁止法における「優越的地位の濫用」に該当する恐れがあります。法的リスクを踏まえたうえで、協力会社とのコミュニケーションを丁寧に行い、双方にとって持続可能な関係を模索することが重要です。
システム・経理体制の再構築
インボイス制度に対応するには、請求書の受領から保存までのプロセスを電子化することが効率的です。請求書管理システムや会計ソフトのアップデートによって、登録番号や消費税額の自動チェックを可能にすれば、経理業務の負担軽減につながります。
また、制度対応は経理担当者だけでなく現場担当者も関与するため、研修やマニュアル整備による社内全体の理解浸透が欠かせません。特に大規模工事を抱える法人では、情報共有の遅れが大きなコストリスクに直結するため、組織的な体制づくりが求められます。
受注側(専門工事会社・協力会社)が気をつけること

適格請求書発行事業者登録の必要性
受注側にとって最大の課題は、インボイス未登録では大口取引先からの発注が停止されるリスクがあることです。発注者である元請・ゼネコン・中堅工務店は、仕入税額控除を確実に行うため、協力会社が適格請求書を発行できるかを重視します。そのため、未登録のままでは「取引打ち切り」や「契約条件の不利な見直し」につながりかねません。
登録の判断基準としては、売上規模や主要取引先の構成、登録による消費税負担の増減をシミュレーションすることが欠かせません。免税事業者としてのメリットを残すか、課税事業者に転換して登録するかは、財務シミュレーションを踏まえて戦略的に決定する必要があります。
請求書発行・保存体制の整備
インボイス制度下では、請求書のフォーマットそのものを見直さなければなりません。登録番号、税率区分、消費税額といった必須項目を明記した請求書を発行できるよう、システムや書式の改修が必要です。
加えて、請求書控えを電子保存する体制も整えなければなりません。電子帳簿保存法との整合性を意識し、電子データでの保存・検索・訂正履歴の管理まで行える仕組みを導入することが望ましいでしょう。さらに、発注者からの確認依頼に迅速に対応できるよう、社内の承認フローや担当者教育も欠かせません。
取引条件・価格交渉の再整理
インボイス登録によって課税事業者となる場合、これまで免税だった事業者に比べて消費税の納税負担が新たに発生します。そのため、取引単価や契約条件を見直し、適切に税負担を転嫁する交渉が不可欠です。
具体的には、契約書に「インボイス制度対応に関する条項」を追加し、請求書の発行条件や価格改定ルールを明文化することが推奨されます。これにより、制度変更を理由とした不当な値下げや一方的な契約変更を防ぐことができます。
また、発注者との交渉では、単にコスト増を主張するのではなく、自社の付加価値や品質向上策を併せて提示する戦略が効果的です。不利な条件変更を避けつつ、取引継続の可能性を高めることができます。
インボイス制度対応の実務チェックリスト

インボイス制度は、理解しているだけでは不十分で、実際の社内体制や取引プロセスに落とし込むことが求められます。以下では、発注側・受注側それぞれの法人が取り組むべき具体的なチェックポイントを整理します。
発注側法人のチェックリスト
- 取引先登録状況の一括確認
取引先が適格請求書発行事業者かどうかを国税庁の公表サイトで確認し、リスト化する。数十〜数百社の協力会社を抱える場合は、表計算ソフトや管理システムを用いて効率化する。 - 請求書フォーマットの標準化・検収システム導入
協力会社から受領する請求書に不備がないよう、標準フォーマットの提示や電子検収システムの導入を検討。登録番号や税率区分が漏れた場合の差戻し手順をマニュアル化する。 - 経過措置適用の影響シミュレーション
免税事業者との取引が残る場合、経過措置の控除割合(8割→5割→2割→0)を踏まえて税負担を試算。工事規模に応じた年間の影響額をシミュレーションし、早期に取引戦略を再構築する。
受注側法人のチェックリスト
- 登録申請の有無と期限管理
適格請求書発行事業者登録を行うかどうかを判断し、登録する場合は期限を管理。特に大口取引先が法人の場合、未登録=取引停止リスクにつながるため優先度は高い。 - 請求書発行体制の見直し(紙→電子化含む)
登録番号、税率ごとの消費税額を明記した請求書を発行できるようにシステム・フォーマットを改修。紙ベースの運用を続ける場合も、電子保存や電子帳簿保存法対応を見据えた体制整備が必須。 - 価格交渉・契約条項の確認
課税事業者となることで新たに発生する税負担を、取引価格に転嫁できるかを検討。契約書に「インボイス制度対応条項」を追加し、不当な単価引き下げや一方的な条件変更を回避する。
まとめ

インボイス制度は、単なる請求書の様式変更にとどまらず、建設業における取引・契約・経理体制を根本から見直す契機となります。特に中規模以上の法人にとっては、数多くの協力会社を管理し、大規模な金額を扱うため、対応の遅れが数百万円規模の税負担増や取引停止リスクに直結します。
発注側は「協力会社の登録状況の一括確認」「請求書の受領・チェック体制の整備」が不可欠であり、受注側は「登録申請判断」「請求書発行体制の見直し」「価格交渉の準備」を早期に進める必要があります。
まずは以下のステップを実践してください。
- 自社と取引先の登録状況を棚卸しする
- 請求書フォーマットや経理システムを制度対応仕様に改修する
- 経過措置終了後のリスクを試算し、取引戦略を立て直す
制度への対応を誤れば、せっかくの受注機会を失うことにもなりかねません。反対に、早期対応を行った企業は「信頼性の高い取引先」として競争優位を確保できます。
インボイス制度対応は待ったなしです。自社内での検討に加え、必要であれば税理士や専門コンサルタントに相談し、最適な対応フローを構築することが確実な第一歩となります。
